従業員数で変わる『会社の義務』、正しく把握していますか?

事業が成長し、新たな仲間が増えていくことは、経営者や人事担当者にとって大変喜ばしいことです。
しかし、それに伴って「会社が守るべき法的な義務」も段階的に増えていくことをご存知でしょうか。

結論から申し上げますと、従業員数が増えるにつれて、会社には「就業規則の届出」「健康診断結果の報告」「障害者雇用」など、様々な義務が発生します。
ここで多くの方がつまずくのが、「どの従業員をカウントするのか(正社員のみか、パートも含むのか)」、そして「どの単位でカウントするのか(会社全体か、店舗や支店ごとのか)」という点です。

本記事では、社会保険労務士の視点から、従業員数に応じて生じる会社の義務と、間違いやすい「人数の数え方」について分かりやすく整理して解説いたします。

【事例紹介】「従業員50人の壁」を前に悩むA社のケース

具体的なイメージを掴んでいただくために、ある架空の中小企業の事例を見てみましょう。

【A社(ITシステム開発)の事例】
本社に正社員が35名、アルバイトが10名。最近開設したサテライトオフィス(別事業所)に正社員が10名います。合計すると55名になり、社長は「従業員が50人を超えたから、産業医を呼んでストレスチェックをしないと違法になるのでは?」と焦って人事担当者に相談しました。

このように、会社全体の人数だけを見て対応を急いでしまうケースは珍しくありません。
しかし、制度によっては「会社全体」ではなく「事業所ごと」で人数を見るため、A社の場合は本社(45名)とサテライトオフィス(10名)となり、すぐに産業医の選任義務が発生するわけではないのです。

会社の義務は「事業所単位」か「法人単位」かで変わる

労務管理に関する法律では、人数をカウントする単位が大きく分けて2つあります。ここを混同しないことが、最初にして最大のポイントです。

  • 事業所(事業場)単位: 本社、支店、営業所、店舗、工場など、場所ごとに独立して人数をカウントします。(例:労働基準法、労働安全衛生法関連)
  • 法人(企業)単位: 本社や支店など、すべての事業所の従業員を合計した「会社全体」でカウントします。(例:障害者雇用促進法、女性活躍推進法関連)

従業員数別・発生する主な義務と「従業員」の定義

それでは、具体的な人数規模ごとに、どのような義務が発生するのか、そして「誰を人数に含めるのか」を整理して見ていきましょう。

1. 常時10人以上:就業規則の作成・届出

  • カウントの単位:事業所単位
  • 従業員の定義: 正社員だけでなく、パートタイム労働者、アルバイト、契約社員など、**雇用形態を問わず「常態として使用しているすべての労働者」**を含みます。ただし、派遣社員は派遣元の人数としてカウントするため除外します。

事業所において常時10人以上の従業員を雇用している場合、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務が発生します。

出典:厚生労働省 モデル就業規則について

2. 常時50人以上:産業医の選任・ストレスチェックなど

  • カウントの単位:事業所単位
  • 従業員の定義: 就業規則と同様に、パートやアルバイトを含めたすべての労働者が対象です。注意点として、労働安全衛生法上、派遣社員は「派遣先」の事業所でも人数にカウントして、各種安全衛生管理を行う必要があります。

1つの事業所で働く従業員が常時50人以上になると、労働者の健康を守るための義務が一気に増えます。いわゆる「50人の壁」と呼ばれるものです。

  • 産業医の選任と労働基準監督署への届出
  • 衛生管理者の選任
  • 衛生委員会の設置と毎月の開催
  • 定期健康診断結果報告書の提出(※健診の実施義務自体は1人でもいれば発生しますが、労基署への「結果報告」が50人以上で義務化されます)
  • ストレスチェックの実施と結果報告書の提出

出典:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく産業医の選任等について

3. 従業員40.0人以上:障害者の雇用義務

  • カウントの単位:法人(企業)単位
  • 従業員の定義: ここでの従業員とは、「週の所定労働時間が20時間以上の労働者」を指します。
    週30時間以上の労働者は「1人」、週20時間以上30時間未満の短時間労働者は「0.5人」として計算します(常用雇用労働者)。

障害者雇用促進法により、企業は一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用する義務があります。
2024年4月からの法定雇用率は2.5%となっており、これを逆算すると、対象となる従業員が「40.0人以上」の企業に、1人以上の障害者を雇用する義務が発生します。(※2026年7月からは法定雇用率が2.7%へ引き上げられる予定です

出典:厚生労働省 障害者雇用率制度について


よくある質問(Q&A)

ここでは、経営者や人事担当者の皆様からよくいただくご質問にお答えします。

Q1: 「事業所単位」とは、近隣にある2つの店舗の人数を合算するのでしょうか?
A: 基本的には、場所(住所)が離れていれば別々の事業所として扱います。ただし、規模が非常に小さく、独立して労務管理が行われていないような店舗(例:本社から徒歩圏内で、勤怠管理も本社で一括で行っている数名の出張所など)は、本社に含めて1つの事業所としてカウントされる場合があります。実態に即した判断が必要です。

Q2: 「常時使用する」とは、どのような状態を指しますか?
A: たまたま繁忙期で一時的に人を多く雇い、一時的に基準人数を超えたような場合は「常時」には該当しません。しかし、人の入れ替わり(退職と採用)によって一時的に人数が基準を下回ったとしても、通常の状態として基準人数を満たしている(または満たすことが常態化している)場合は「常時使用している」と判断されます。

Q3: 従業員が50人を超えそうですが、何から手をつければ良いですか?
A: まずは「産業医の選任」に向けた準備から始めることをお勧めします。要件を満たす医師を探し、契約を結ぶまでには数ヶ月単位で時間がかかることが多いためです。同時に、衛生管理者の資格取得に向けた社内調整(受験者の選定など)も進めておくとスムーズです。

おわりに

会社が成長し人員が拡大することは素晴らしいことですが、それに伴う法的な義務を見落とすと、法令違反によるリスク(是正勧告や罰則、企業イメージの低下など)を抱えることになります。

「法人単位なのか、事業所単位なのか」「アルバイトや派遣社員は含むのか」といったルールは複雑で分かりにくい部分も多いかと思います。従業員数が増えてきたなと感じたら、一度自社の正確な労働者数を把握し、どのような義務が近づいているのかを専門家である社会保険労務士にご相談いただくことで、安心して本業の成長に専念できるはずです。

お悩みの際は、ぜひ社会保険労務士事務所ウェルブルまでお気軽にご相談ください。
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