職場で心の不調を予防するには仕事の量に加えて、判断や確認の負担が誰に集まっているかも見直す必要があります。
AIで作業が速くなったときも、その成果物を確かめる時間まで含めて、無理なく働ける仕事の配分を考えたいところです。
精神障害の労災支給決定は、2025年度に1,082件
その後、2026年7月に公表された2025(令和7)年度の支給決定件数は1,082件となり、前年度を上回っています。
少しさかのぼると、支給決定件数は2020(令和2)年度の608件から、2022(令和4)年度には710件、2023(令和5)年度には883件へと増えています。
2025年度の1,082件は、5年前の約1.8倍です。仕事が原因の精神障害として労災が認められるケースが、この数年で急増していることが分かります。
厚生労働省・過年度の推移・2025年度の公表資料
※これらは労災保険給付の支給を決定した件数で、精神障害を発症した人全体の人数や、その年度に発症した人数を表すものではありません。
AIを使う私自身が感じる、作業と確認の並行
私も自分の作業と並行してAIを使っています。生産性が上がることは強く実感していますが、それに伴って、別の負担も感じています。
自分の仕事を進めながら、AIが仕上げてきた成果物を確認する。そして、内容が正しいのか、依頼の意図に合っているかを確認して必要な修正を判断する。
こうした作業を常に並行して行うため、精神的な負荷も強く感じています。
自分で仕事をしながら、ほかの担当者が仕上げた仕事も確認する。感覚としてはプレイングマネージャーに近いものがあります。
また、AIは「24時間働ける超優秀な部下」なので、この部下の能力を最大限発揮できる環境を作れるかどうかという、管理者としてのプレッシャーも感じてしまいますね。(私だけかもしれませんが)
これらは私自身の使用感です。AIによって負担が減る場面もありますし、任せる業務や使い方によっても違うでしょう。
ただ、AIの導入効果を考える際に、作成時間の短縮とあわせて、人が確認・判断する負担についても考慮が必要だと思います。
残業時間とあわせて見たい、仕事の中身
職場の負担を把握するとき、残業時間数は重要な項目となります。それに加えて、仕事量、責任の重さ、仕事の進め方を自分で調整できる範囲、周囲からの支援なども確認したいところです。
厚生労働省が開設しているメンタルヘルスサポートサイト「こころの耳」でも、職場環境の改善ポイントとして仕事量や責任と裁量のバランス、役割の明確さ、職場の人間関係などが取り上げられています。こころの耳・職場環境改善ツール
たとえば、次のような状況を想定してみてください。
小規模な会社で、各担当者がAIを使って資料を作るようになりました。資料の作成は格段に速くなりましたが、最終確認はこれまでどおり上司である一人の管理職が担当しています。確認依頼が増えても実際の最終チェックは人間が行っており、また、管理職自身の仕事量や締切は変わりません。
全体の生産性向上や効率化は出来たとしても、一部の人間にだけ極端に負荷がかかるようになってしまいました。
この場合で見直したいのは、確認に必要な時間と、誰にどこまで任せるかという仕事の配分です。
「AIで速くなった分、もっと処理できる」とだけ考えるのではなく、全体の流れや業務分担の量・裁量・最終チェックをする人の仕事までを一度棚卸しすることで、調整すべき箇所が見えてきます。
全体の仕事の流れから各従業員の負荷のかかり方までを想定しないと、特定の人材にのみ負荷がかかり、メンタルヘルスに不調をきたす土壌が作られてしまうおそれがあります。
確認する時間を、仕事の予定に入れる
そのため、AIを使う業務では、導入時に次の点まで決めておくことを提案します。
- 確認と修正に使う時間を、締切や担当件数に織り込む。
- 作成者が確認する範囲と、最終確認者が判断する範囲を決める。
- 並行して進める案件が多すぎる場合は、優先順位をつけ直す。
- 確認が追いつかないときに、期限や仕事量を調整できる相談先を決める。
確認を減らせばよいという話でもありません。誤りの影響が大きい内容には相応の確認が必要です。
その時間を確保し、特定の人だけが抱え込まないように仕事を組み直すことが、会社側で取り組むべき対策です。
また、効率化で生まれた時間を、すべて追加の仕事で埋める必要はありません。休憩を取りやすくする、突発的な依頼に対応する余裕を残すなど、働き続けられるような配慮も検討すべきでしょう。

相談を受けた後に、仕事を調整できる職場へ
精神障害の予防を考えるうえでは、AIの使い方とあわせて、長時間労働やハラスメントへの対応、相談体制の整備など、職場全体の環境を見直す必要があります。
相談窓口を案内する際には、誰が話を受けるのか、どの範囲で情報を共有するのかを明確にしましょう。上司に直接話しづらい場合の相談先も用意しておくと、負担を伝える選択肢が増えます。
相談を受けたら、本人の話を聞き、仕事の量や締切、役割分担について調整できることを検討します。健康に関する情報の共有は必要な範囲に限り、心身の不調については、産業医や医療機関などの専門家につなぐことも必要です。こころの耳・メンタルヘルス対策の概要
こうした取組によって、すべての精神障害を防げるわけではありません。それでも、会社が調整できる負担を放置せず、小さな改善を続けることはできます。
よくある質問
Q. 残業が少ない職場でも、負担の確認は必要ですか。
はい。労働時間だけでなく、仕事の密度、責任、裁量、支援の受けやすさなども確認しましょう。残業時間だけで、心身への負担が小さいとは判断できません。
Q. AIの利用を控えたほうがよいのでしょうか。
一律に控える必要があるとは考えていません。AIの生産性は凄まじいものがありますが、その弊害を考慮する必要はあります。任せる業務と人が確認する範囲を整理し、導入後の仕事量や負担を確かめながら運用を調整する、という考え方が重要です。
Q. 小規模企業では、何から始めればよいですか。
まずは、仕事をする人と確認する人の両方から時間がかかる作業や判断に迷う箇所を聞いてみてください。そのヒアリング結果から期限や役割分担を見直すことを検討します。
お困りの際は社労士事務所ウェルブルまでご相談ください
「AIを導入したが、確認する担当者だけが忙しくなっている」
「相談窓口はあるものの、業務の調整につながっていない」
こうした場合は、現在の業務の流れを整理するところから始めてみませんか。
社会保険労務士事務所ウェルブルではAI導入支援や規定の作成だけでなく、仕事の配分や職場の相談体制についてもご相談いただけます。
自社で見直せることと、産業保健・医療の専門家との連携が必要なことを分けながら、会社の実務に合う形を一緒に考えていきましょう。
こちらからお気軽にご相談ください。
