「始業は9時。でも、朝礼は8時50分から」
「制服に着替えて、パソコンを立ち上げてから打刻してもらっている」
こうした職場では、勤怠記録に残っていない労働時間があるかもしれません。
労働時間に当たるかは、会社の指揮命令下にあるかどうかで判断します。実際の作業に入る前でも、会社が求める準備や参加が義務づけられた活動は労働時間に含まれます。
ただ、会社に早く着けば、その時点からすべて労働時間になるわけでもありません。移動中の時間も同じです。朝礼・着替え・PC起動・研修・移動時間を例に、どこで判断が分かれるのか、会社の運用をどう見直せばよいのかを解説します。
労働時間の判断基準は「会社の指揮命令下にあるか」
厚生労働省のガイドラインでは、明確な命令だけでなく、黙示の指示によって仕事をしている時間も労働時間とされています。口頭や文書で「やりなさい」と伝えていなくても、会社が事実上求めていれば含まれるということです。
自社の状況に当てはめるときは、次の点を見てみてください。
- 会社や上司がその行為や参加を求めているか
- 仕事をするうえで必要で、従業員が行わざるを得ないか
- 断ったり参加しなかったりすると、注意や不利益があるか
- その時間を自由に使え、業務から離れることが保障されているか
就業規則に「準備時間は勤務時間に含めない」と書いていても、それだけで労働時間から外すことはできません。規程にどう書いてあるかに加えて、現場ではどんな指示が出ていて、従業員が何をしているのかまで見る必要があります。
参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
始業前の朝礼も、参加が必要なら労働時間
9時始業の会社で、朝礼は8時50分から。当日の担当や注意事項を伝えるため、全員に参加を求めているとします。
この場合は朝礼の時間も労働時間です。打刻や勤怠集計が9時からになっていれば、朝礼を始めた時刻とのずれを直す必要があります。
案内に「自主参加」と書いてあっても、欠席すると注意されたり、出席しなければ仕事の指示を受け取れなかったりする実態があれば、名称だけで判断することはできません。
※早く出社した従業員が、自分の判断で同僚と雑談しているだけなら、原則としてその時間は労働時間に当たりません。
会社の運用としては、業務上必要な朝礼を所定の始業後に組み込むと、従業員への説明と勤怠管理をそろえやすくなります。始業前に行うのであれば、朝礼の時間も記録し、労働時間として集計しましょう。
着替えは、服装・場所の指定と業務上の必要性が判断の手がかり
食品工場で衛生服の着用が義務づけられ、衛生管理のため会社の更衣室で着替えるよう指示されている。
こうした場合は着替えに必要な時間は労働時間に含まれます。業務に必要な服装への着替えを事業場内で行うことが義務づけられているためです。
退勤時の動きも見ておきたいところです。会社の指示で保護具を外したり、指定の服を脱いで片づけたりするなら、その作業内容を確認します。
「仕事が終わったから、先に退勤打刻をして」としていると、必要な後始末の時間が記録から抜けることがあります。
もちろん、スーツなど通常の通勤着を自宅で着る時間や、会社が求めていない私的な着替えまで、当然に労働時間になるわけではありません。
制服での通勤が認められ、会社で着替えるかを本人が自由に選べる場合、自発的な着替えは原則として労働時間に当たりません。ただし、規程上は自由でも、実際には上司が社内での着替えを求めていないか、確認が必要です。
服装の指定だけで決めず、会社がどこでの着替えを求めているかまで確かめてください。社内での着替えが業務上必要なら、着替えを始める前と必要な後始末を終えた後に記録できるよう、打刻場所や端末の位置も見直しましょう。
PC起動から打刻までの準備時間にも注意
「9時には電話受付を始めるので、それまでにPCを起動し、業務システムへログインしておくように」
この指示に従って準備する時間は、どう扱うのが正しいでしょうか。
ガイドラインの準備行為の考え方に照らすと、指示に沿って行うPC起動やログインなど、業務に必要な準備は労働時間に当たると考えられます。起動中もその場で待機して作業を続ける必要があり、自由に離れられないのであれば、待ち時間も含めて確認します。
ここで気をつけたいのが、PCを起動しないと打刻できない仕組みです。勤怠画面を開くまでに行った準備が、集計から抜けてしまう可能性があります。別の打刻端末を使う、実際に準備を始めた時刻を記録して補正するなど、その時間を把握できる方法を用意してください。
ただし、PCが起動していた時間のすべてを労働時間とするわけではありません。自動起動や私的な利用もあり得るので、PCログは実際の業務と照らし合わせて使います。PC起動前に朝礼や着替えをしているなら、その時間はログだけでは分かりません。

「任意」の研修でも、実際に断れるかどうか
会社が受講を命じた研修や、参加が業務上義務づけられている教育訓練は、労働時間として扱います。社外研修でも、休日の開催でも、オンラインでも、判断の軸は同じです。
例えば、全社員に情報セキュリティの動画研修を割り当て、期限までの受講と確認テストの提出を義務づけたとします。「自宅で好きな時間に見てください」と伝えても、受講しなければならないことに変わりはありません。業務として必要な受講や課題に取り組む時間を把握する必要があります。
反対に、参加するかどうかを本人が自由に選べ、参加しなくても不利益がなく、会社から業務上の指示を受けていない自主的な学習は、原則として労働時間には当たりません。
研修を案内するときは、「必須か任意か」に加えて、受講する時間帯と勤怠の記録方法も伝えましょう。任意としていても上司が出席を迫っているようなら、案内と現場の運用が食い違っています。
厚生労働省の「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」(2026年6月版)では、事実上参加が強制される研修のほか、直行直帰・出張の移動時間も解説されています。
移動時間は、通勤・出張・業務中の移動で分けて考える
移動時間はひとくくりにできません。何のための移動で、会社からどんな指示を受けているかによって取扱いが変わります。
・自宅から通常の勤務地への通勤
通常の通勤は、原則として労働時間には当たりません。
通勤に時間がかかるという理由だけで、労働時間になるものではありません。
・直行直帰や出張のための移動
移動中の業務や移動手段の指示がなく、仕事をせず自由に過ごせるような場合は、労働時間に該当しません。
一方、移動中に上司の指示で資料を作るなら、その作業時間を把握します。移動全体の時間と、途中で仕事をした時間は分けて考えましょう。
・会社の指示で行う運転・現場間の移動
配送の運転や、業務中に指示を受けて次の現場へ向かうなど、業務として拘束される移動は労働時間に含まれます。
例えば、会社の指示で朝に集合し、資材を積んで指定の社用車で現場へ向かう場合、積込みやその移動は原則として労働時間に当たります。
社用車に同乗している人も、「運転していないから対象外」とは決められません。会社が集合や乗車を指示しているのか。それとも直行直帰は自由で、本人たちが任意に乗り合わせているのか。この違いも判断に関わります。
建設業の具体的な移動・待機の例は、厚生労働省の「労働時間の考え方(移動時間、待機時間)と適正把握について」も参考になります。
会社が見直すなら、始業前・終業後の行動から
社内の運用を見直すなら、社長や現場責任者が従業員の一日の流れをたどってみてください。就業規則を読むだけでは気づかなかった、勤怠記録から抜けている時間が見つかるかもしれません。
- 打刻の前後にしていることを書き出す。
着替え、朝礼、機器の準備、片づけなどについて、誰が求めているのか、いつ始めていつ終わるのかを確認します。 - 記録と実態を照らし合わせる。
打刻データに加え、PCログ、研修案内、業務日報などを確認します。差がある日は本人と上司に理由を聞きましょう。 - 勤務の組み方と記録方法をそろえる。
朝礼や準備を所定時間内に組み込むか、必要な時間を記録・集計できる方法を決め、従業員と承認者へ伝えます。 - 給与の締め前に集計結果を確認する。
始業前の記録が所定時刻へ自動的にそろえられていないか、申告された研修や移動が反映されているかを点検します。
短い時間だから記録しなくてよい、ということにはなりません。労働時間であれば日々の記録・集計の対象です。毎日の労働時間を15分単位などで一律に切り捨て、その分の賃金を支払わない取扱いは認められません。
例外として、1か月の時間外労働・休日労働・深夜労働をそれぞれ合計した時間数に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる取扱いは認められています。これは月ごとの合計に対する処理であり、毎日の労働時間の切捨てに使えるものではありません。
参考:厚生労働省「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」
よくある質問
会社が残業を許可していなければ、労働時間から外せますか?
許可がないという理由だけでは外せません。実際の指示や業務量、上司が残業を把握していたかなどから、黙示の指示があったかを判断します。事前承認のルールを設けることも、実際の労働時間を把握することも必要です。
始業前に早く出社した時間は、すべて記録する必要がありますか?
出社時刻の記録は判断の手がかりになります。ただ、会社にいた時間のすべてが労働時間とは限りません。私用で早く来て朝食を取っていたのか、会社が求める準備をしていたのかを区別して、実際に労働時間が始まった時刻を確認します。
全員に一律5分の準備時間を付ければよいですか?
一律に5分を付けるだけでは、実際に必要な時間を把握できません。部署や設備によってかかる時間が違わないかを確かめ、実態と合わない場合は修正できるようにしてください。「5分しか申告できない」という上限にしてしまわないことも必要です。
労働時間の考え方を、勤怠システムの設定にも反映する
どこからが労働時間なのかを整理しても、打刻方法や集計設定が合っていなければ、毎月の給与計算には反映できません。会社が何を求めていて、その時間をどう記録しているか。両方を一緒に確かめるところから始めましょう。
社会保険労務士事務所ウェルブルでは、労務相談や、勤務ルールに応じた勤怠システムの導入・設定を支援しています。現在の就業規則と打刻・集計データ、始業前後の業務の流れをもとに、どこを見直せばよいかを一緒に整理いたします。
「着替えや朝礼をどこから記録するか迷う」「準備時間を勤怠システムに反映できていない」といった場合は、勤怠システム導入・設定サポートをご覧いただくか、お問い合わせフォームからご相談ください。
本記事は2026年10月11日に確認した公的資料に基づく一般的な解説です。個別の取扱いは、会社の指示や業務の実態などにより判断します。
